コーエンの強制法と連続体仮説の否定モデル 第8/11章




・・・・・
・・・・
・・・
・・

すいません。
ちょっとだけ嘘つきました。

わかりやすさを優先して
前章では「〜の方法で整数の世界に小数を追加し、演算も定義する」を示しましたが、
実際はその方法には
ちょい問題あるんです。

なぜうまくいかないか見てゆきましょう。
そしていよいよこの章で「強制法」が出てきます。


問題があったのは
 「整数界の住人は、頭の中で、適当な<整数の外にある数>『α』を仮定します。」
の<整数の外にある数>です。


数学では
 自然数 → 整数 → 小数 → 実数(小数+無理数) → 複素数(実数+虚数)
で数の世界が広がるように、
<整数の外にある数>の可能性としては
小数の他にも虚数であったりするわけです。

その場合は小数とは違う振る舞いを行うので
別の世界へと分岐してまうのです。

いやもっと、実際にはもっと広い。
複素数の外の数である可能性だって有り得ます。
例えばベクトル要素であったり、
<あひる>のような物であったり、
<人間にとっては理解不能だが、もっと上の存在には認識可能な何らかの数>のようなものまで。

整数界の住人にとっては
そういう可能性を全て含めて<整数の外にある数>に見えるので
区別ができません。

なので<整数の外にある数>を思い浮かべた所で
それが必ずしも小数になるとは限りません。
そして恐らく<あひる>のようなわけわからない物を追加してしまったら困る事になります。
それがやりたかったんじゃないんです。


そこで<整数の外にある数>αの追加に以下の改良を加えます。

0) αは、以下に述べる条件のどれにもあてはまらない
1)αは1より大きくて2より小さい数である可能性
2)αは2より大きくて3より小さい数である可能性
3)αは3より大きくて4より小さい数である可能性
・・・・

このようにαの振る舞いについて分岐を加えます。
そしてパターン0に我々の世界で言う
虚数や<あひる>などの不都合な物を入れ込み、封じ込めます。


具体的には整数世界の住人が<整数の外にある数>αを思い浮かべます。
彼らにはそのαがなんであるかわかりません。
が、少なくとも
0) αは、以下に述べる条件のどれにもあてはまらない
1)αは1より大きくて2より小さい数である可能性
2)αは2より大きくて3より小さい数である可能性
3)αは3より大きくて4より小さい数である可能性
・・・・
のどれか一つが<上の世界>で成立することはわかります。

そして次に<整数の外にある数>βを思い浮かべます。
彼らにはそのβがなんであるかわかりませんが、
が、少なくとも
0) βは、以下に述べる条件のどれにもあてはまらない
1)βは1より大きくて2より小さい数である可能性
2)βは2より大きくて3より小さい数である可能性
3)βは3より大きくて4より小さい数である可能性
・・・・
のどれか一つが<上の世界>で成立することはわかります。

そして次に<整数の外にある数>γを思い浮かべ・・・


そして最終的には
αがパターン0以外のケースであったと仮定して、
βもパターン0以外のケースであったと仮定して、
γもパターン0以外のケースであったと仮定して、
・・・・

を繋げばいいんです。



わかりにくかったと思うので
同じ事をちょっと違う言葉で繰り返します。

整数世界の住人から見たらα、β、γの可能性としては
αはパターン0、パターン1、パターン2、パターン3・・・の可能性
 × 
βはパターン0、パターン1、パターン2、パターン3・・・の可能性
 ×
γはパターン0、パターン1、パターン2、パターン3・・・の可能性
 ×
・・・・
の無限の可能性があります。

実際どれかはわかりませんが、
ここで一転攻勢。

彼らの方から
αがパターン0以外のケースであったと仮定して、
βもパターン0以外のケースであったと仮定して、
γもパターン0以外のケースであったと仮定して、
と注文をつけ、
条件を確定してしまうのです。


これが強制法において重要な役割を果たす
ジェネリック・フィルターと呼ばれる概念です。

ジェネリックは「αがパターン0以外のケースであったと仮定して」の部分に相当し、
いわゆる「我々がいまいる世界(整数世界)と同じ計算法が通じる数字である」事を要請しています。

そしてフィルターは「アルファは・・・、βは・・・、γは・・・」の部分に相当し
いわゆる「追加した新規数字は全てジェネリックである」事を要請しています。



ある意味逆転の発想です。

<外の世界>は広いんです。
<中の世界>に比べて遙かに巨大で
あらゆる可能性が外では起こりえます。

なので、逆に「外の世界の中でも、中の世界と計算法則が似ているエリアが欲しい」のように
<中>側から条件つけて
場所を狭める事で
<中>の常識で計算ができるようになるような
限定エリアを選び出すのです。

これが「強制法」たる由縁です。
(中から注文をつける
 → 注文を満たすように外にある世界のエリアが限定される
 → 外のエリアが中から強制されたと)




こうして彼らは
外の世界(小数、虚数、<あひる>、<人間にとっては理解不能だが、もっと上の存在には認識可能な何らかの数>)の中から
ジェネリックフィルターで<小数のように振る舞う>条件を要請することで
<小数のように振る舞う、外の世界の特定エリア>を得る事ができるようになるんです。



注釈をつけると
あくまで<小数のように振る舞う物>であって正確には<小数>ではないんですが。

仮に私が「μ」と言う単位を作ったとします。
整数でも小数でも複素数でもない新種の数字の単位です。

そして
0.5μ+0.5μ=1μ
のように、μはいかにも小数と同じように振る舞うと定義します。

小数をしってる我々には
0.5+0.5=1
0.5μ+0.5μ=1
のように違いは見えます。
それはなぜなら我々は小数を知っているので、だから<μは小数とは違う>区別がつきます。


ところが整数界の住人にとってはどちらも
α+α=1
β+β=1の
ように見えますからこれらの見分けはつきません。

これが<小数のように振る舞う物>の意味です。


なので、彼らが<小数>と思って付け加えたαは
本当は<小数のように振る舞う物μ>であって、我々の知ってる「小数」とは違うかも知れません。


まあでも、それは別にいいんですね。^^A;
本当の小数じゃなくても、<小数のように振る舞う物>である限り
両者は同じような振る舞いを行いますので
区別する必要がないからです。




こうして彼らは整数世界の中にいながらにして、任意的な選択(強制)によって
<小数のように振る舞う物・およびその世界>の存在を手に入れました。
これにて
 小数の存在証明:第一の条件「整数ではない数字の存在」 は本当にクリアしました。

次の章で
 小数の存在証明:第二の条件「小数についての+−演算を(整数世界の中から)定義する」
を示します。


前ページ 次ページ

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11


トップへ