バナッハ・タルスキーのパラドックス 第5章



ここからが謎解きパート。

なぜこんな事が起きてしまったのか。
本当に正方形から二つの正方形が産まれたのか。
それとも議論に穴があり、どこかで読者を騙していた・・・?

答えを言うと議論に矛盾はありませんでした。
本当に正方形から二つを正方形を産み出すことに成功してます。
おかしな話ですが、数学的には「正方形=正方形+正方形」の解答の方が(100%)正解なんです。(^^A;


とは言えトリックはあります。
瞬間的ですが「異常な状態」を作りだし、
何かが壊れた。それが悪夢の発端。


さて。
ところで別の質問をしますが
「正方形=正方形+正方形」の何がマズいのでしょうか。

答えは・・・もちろん面積ですね。
面積1の図形を分割して、面積1の図形が二つできたら
 面積1=面積1+面積1
のおかしな計算になります。
これが私たちが正方形=正方形+正方形の計算式がおかしいと感じる理由。

ならば面積に着目して、
 正方形(面積1) 
 → ΣQ(面積?)
 → 図形A(面積?)+図形B(面積?) 
 → 変形A(面積?)+変形B(面積?) 
 → 正方形A(面積1)+正方形B(面積1)
のプロセスのどこかで、
面積が増えた箇所があるはずなんです。

ああ、これならわかりやすい。
レッツ矛盾点を探そう♪



まあ答えから言っちゃいますが(^^;
正解は・・・Q1。ここです。
以下、記号のスッキリ化の為に
Q=Q1と呼称します。

このQと言う図形は
やはり
測度論と、面積が測定できない不思議な図形の話 - 4でも書いてますが
「非可測図形」と呼ばれる物体で
この図形に面積を割り当てる事はできません。

図形Qの面積としては、0未満でも、0丁度でも、0以上でも、どの数値を当てはめても矛盾が発生します。
よって「図形Qの面積を測る事は不可能である」との結論に至ります。

なので綻びは
 ΣQn(面積?)
パートにありました。
各々のQnが非可測図形、すなわち面積の存在しない図形なんですから
それをΣした物、「ΣQの面積」にも面積を求めることはナンセンスです。

よってフローチャートも
 正方形(面積1)
 → ΣQ(Qは面積測定不可能)
 → 一度面積が崩壊した以上、これ以降の面積を測る行為には意味がない
で終わるんです。

これがパラドックスの解決点。
ここで議論が破綻してるからこそ
それ以上先には面積の計算式が進まず、
矛盾は発生しないんです。



しかし・・・腑に落ちない話。

数学的には間違いなく「正方形=正方形+正方形」は成立してます。断言します。
しかし同時に、面積で考えると正方形(面積1)=正方形(面積1)+正方形(面積1)
の計算は明らかにおかしい。

どうしてこんな事になってしまったのでしょうか。

それは「面積の概念は人為的」だからです。


正方形は純粋に数学的な概念です。人間がこの世に存在しなくても正方形は存在できます。

ところが面積は人間的な概念なのです。
「見た目の大きさの数値化」と言う正方形に対して後から割り当てられた人為的な操作。
測量する人間がいなくては「正方形の面積」は存在しませんし、
また測る人間の単位(1cm法、1フィート法、1尺法、・・・)などによっても「面積の数値」は変化しますから。
このあいまいさにパラドックスの入り込む余地があったんです。


もう一度繰り返しますが正方形のΣQn分割、各Qnスライド、及び結合によって産み出された
 正方形=正方形+正方形
は数学的には正しいです。ここまではいい。


じゃあ何が悪いかって、「面積」が悪いんです。

逆に言えば!
面積さえ考えなければ、
 正方形=正方形+正方形
が成立する事に数学的な問題はないんです。驚くべき事に。
(端的に言えば正方形の中には∞の点があり、∞÷2=∞なので半分に割っても全体を復元できるって話)

よってパラドックスの回避法としては
「面積を測る方が悪い」
と結論づけるのが一番正しくて自然な解決法。




今回のコラムはこれにて終了です。

バナッハ・タルスキーのパラドックスはほとんどこれの球体バージョンなので
特に説明はしません。
やり方は同じく球を「有理数加算による同値フィルター」で「非可測体積」の細かい粒子にまで分解し
その後に寄せ集めのプロセスで球を増やします。

パラドックスの穴を指摘するのも
 「『非可測体積』に分割した時点で体積の概念が崩壊している。その後の物体に体積を持ち出すのはナンセンス」。
と正方形バージョンと全く同じです。



それにしても今回はあまりにも意外な結論だったと思います。

面積を測る方が悪い

怒られてしまいました。( ̄□ ̄;
まさか人間による面積の測量行為がパラドックスを作りだしていた原因だったとは。


最後にフォローしておきますが面積の概念自体がそこまで
間違っているわけではありません。

面積は「可測図形」と言う範疇にいる限りは正しく動きます。
そして99.9999999999・・・%の図形は可測に入ります。

ただ今回は正方形分割の過程で非可測図形が出てきた(図形Q)。
これがイレギュラー中のイレギュラー。
非可測図形に出会った瞬間に面積の測量行為は破綻し、崩壊します。
ウィルスみたいな物です。一度崩壊した面積の測量は二度と治りません。
それ以降の議論でも面積を考える事自体がタブーになります。
そんな超特殊ケースでした。

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