「数学コラム 一カ所の矛盾→世界が崩れる(2013/02/26)」
ふと思いついたのでミニ数学コラムを。
漫画やアニメにはよく「矛盾」した能力とか出てきますが。
もしあれが本当に実在したらどうなるかの考証をば。
例えば、語源の通り
・どんな盾でも貫く最強の矛
・どんな矛でも止める最強の盾
がこの世にあったとします。
この場合は別のいい方として
・その矛は、止められない(どんな盾でも貫く事ができるので)
・その矛は、止められる(最強の盾によってブロックされるので)
の二通りの状態が存在する事になります。
「その矛は、止められない」を式pに置き換えれば
p ∧ ¬p (∧は『アンド』。¬は『否定』を表す数学記号です。)
が成立してることになります。
もしそんな事態が発生したらどうなるか。
答えは「世界が崩壊する」です。
矛だけの問題じゃないんです。一瞬でこの世に存在するありとあらゆる法則が崩壊します。
証明は以下の通り。
定理:
もし、とある式pについてpと¬pが同時に成立していたら、
任意の文章sについてsと¬sが同時に成立する。
証明:
仮定により、式pが成立している。 (1)
同様に仮定により、¬pも成立している。 (2)
WLOG 任意の文章sは正しいとする。 (3)
もしsが正しくないなら、t=¬sと書けばtが正しい事となる。そしてsとtの記号を入れ替えれば文章sが正しくなるので問題ない。
(WLOGはwithout loss of generalityの事で、こういう風に論理の利便を使って証明プロセスを簡略化するのに使います)
この時、
s → pである。(s → pは『もしsが成立するならば、pも成立する』と読みます)
なぜなら(3)によりsは正しい。(1)によりpも正しい。よって式(s → p)はただのトートロジーであり常に成立するので。
次にs → pの対偶を取れば
¬p → ¬s
が成立する。(論理式A→Bの対偶は¬B→¬A。元の式とその対偶は常に同値)
ところが(2)により¬pは成立している。
なので
¬p → ¬s、および¬pを組み合わせる事で
¬sが成立する。 (4)
(これを数学論理学でmodus ponensと言います。「a → b」および「aの成立」から「bの成立」を得ることを。)
(3)と(4)を合わせる事で
sの成立と、¬sの成立が同時に成り立つ。
よって「s ∧ ¬s」が証明できた。
□
こうなります。
どういう事かと言うと、
「s ∧ ¬s」は全ての文章sについて成り立つので
例えばもしsを
「地球は丸い」と言う言葉にすればsの否定、
すなわち「地球は丸くない」と言う文章も正しいことになります。
地球は丸くなかったのです!
sを「宇宙のどこかに人類がいる」と言う言葉にすればsの否定、
すなわち「宇宙のどこにも人類はいない」と言う文章も正しいことになります。
sを「1+1=2」にすれば「1+1≠2」も正しい事になります。
もうメチャクチャ。
たった一カ所でも矛盾があるだけで、
この世に存在するありとあらゆる事実・事象・法則・式などについて
真と偽の状態が同時に成立するようになるので
世界が全く成り立たなくなるのです。
だからちょーーーーーーーーとでも矛盾の穴があると
この世は崩壊します。
「この矛だけ特別に矛盾してるんです。多めに見て」ってわけにはいかないんですね。
矛盾への例外は一切許されません。^^;
次回にもう一回、
証明パートを具体的な例を使いながら
わかりやすい説明つきで再録したいと思います。